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はじめに|「テキストの数値と法令集が違う」と焦ったことはありませんか
中古で買った過去問集を解いていて、解説に「木造3階建て以上」と書いてあるのに、法令集を引くとその文言が見当たらない。
法規の学習でいちばん消耗するのが、この手のズレです。自分の理解が間違っているのか、教材が古いのか、判断がつかないまま時間だけが過ぎていきます。
法改正が続いた時期の教材はとくに危険で、条文そのものが差し替わっているため、覚え直しではなく「覚えていたものを消す」作業が必要になります。
この記事では、まず適用法令の基準日という大前提を確認し、そのうえで直近の改正で条文がどう変わったかを、現行条文の文言に沿って整理します。数値はすべてe-Gov法令検索の現行条文と照合しています。
大前提|適用されるのは「試験年の1月1日現在で施行されている法令」
法改正の話に入る前に、これを押さえてください。試験で適用される法令の基準日は決まっています。
建築技術教育普及センターは、令和8年試験について次のように示しています。
「学科の試験」及び「設計製図の試験」の解答に当たり、適用すべき法令については、令和8年1月1日現在において施行されているものとします。
つまり試験年の1月1日にすでに施行されている法令だけが対象です。ここから2つのことが言えます。
その1|公布されただけの改正は出ない。 法律が公布されてから施行されるまでには、通常1〜3年の準備期間が置かれます。ニュースで「改正建築基準法が成立」と報じられても、施行日が来ていなければ試験には出ません。
その2|1月2日以降に施行される改正も、その年は出ない。 建築関係の改正は4月1日施行が多いため、「今年4月に施行された改正」はその年の7月の試験には出ず、翌年の試験から対象になります。ここを取り違えると、出ない改正を必死で覚えることになります。
令和9年(2027年)試験を受ける方へ
令和9年試験の受験要領は、例年3月頃に公表されます。本記事の執筆時点では未公表です。
基準日は例年「試験年の1月1日現在で施行されているもの」という書き方が続いているため、令和9年も同じ形式になると見込まれますが、確定情報は必ず公表後の受験要領で確認してください。 年によっては特定の改正法について別扱いが注記されることもあります。
法令集を買うタイミングも同じ理屈です。詳しくは一級建築士 勉強はいつから?|9月から始める1年間の学習計画で触れています。
改正1|確認申請の対象が、構造種別で分かれなくなった(法6条1項)
もっとも影響が大きいのがここです。現行の法6条1項は次のようになっています。
建築基準法 第6条第1項(抜粋)
一 別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で、その用途に供する部分の床面積の合計が二百平方メートルを超えるもの
二 前号に掲げる建築物を除くほか、二以上の階数を有し、又は延べ面積が二百平方メートルを超える建築物
三 前二号に掲げる建築物を除くほか、都市計画区域若しくは準都市計画区域(いずれも都道府県知事が都道府県都市計画審議会の意見を聴いて指定する区域を除く。)……内又は都道府県知事が関係市町村の意見を聴いてその区域の全部若しくは一部について指定する区域内における建築物
読み取るべきポイントは3つです。
1|特殊建築物の規模要件は「200㎡超」。 別表第一(い)欄の用途に供する部分の床面積の合計で判定します。
2|2号に木造・非木造の区別がない。 現行条文は「二以上の階数を有し、又は延べ面積が二百平方メートルを超える建築物」とだけ書かれています。木造かどうかで規模要件が変わる構造にはなっていません。 古い教材にある「木造は3階以上または500㎡超」「木造以外は2階以上または200㎡超」といった読み分けは、現行条文には対応する文言がありません。
3|3号は「都市計画区域等の内か外か」だけで決まる。 1号にも2号にも当たらない建築物、つまり平屋かつ200㎡以下の非特殊建築物が、都市計画区域等の中にあるかどうかで判定されます。
適用除外と審査期間もあわせて
法6条は周辺の項までまとめて出題されます。
建築基準法 第6条第2項・第4項(抜粋)
2 前項の規定は、防火地域及び準防火地域外において建築物を増築し、改築し、又は移転しようとする場合で、その増築、改築又は移転に係る床面積の合計が十平方メートル以内であるときについては、適用しない。
4 建築主事等は、……同項第一号又は第二号に係るものにあつてはその受理した日から三十五日以内に、同項第三号に係るものにあつてはその受理した日から七日以内に、……審査し……
10㎡以内の増改築移転が確認不要になるのは防火地域および準防火地域「外」に限られる点、審査期間が1号・2号は35日/3号は7日である点は、そのまま出題されます。
確認申請の全体像は建築確認申請が必要なケース・不要なケース完全ガイドで整理しています。
改正2|審査省略の対象が、法6条1項3号だけになった(法6条の4)
いわゆる「4号特例」と呼ばれてきた仕組みです。条文はこうなっています。
建築基準法 第6条の4第1項(抜粋)
一 第六十八条の十第一項の認定を受けた型式……に適合する建築材料を用いる建築物
二 認定型式に適合する建築物の部分を有する建築物
三 第六条第一項第三号に掲げる建築物で建築士の設計に係るもの
覚え方はシンプルです。審査省略の対象は「法6条1項3号の建築物で、建築士が設計したもの」。 3号は前述のとおり、1号にも2号にも当たらない建築物、すなわち平屋かつ200㎡以下です。
条文名が「4号特例」ではなくなっている点にも注意してください。条文上の根拠は法6条の4第1項第3号であり、法6条1項に4号は存在しません。 呼び名だけが実務の慣習として残っています。
また、省略されるのは審査であって、規定そのものの適用が免除されるわけではありません。 法6条の4第1項の柱書は「建築基準法令の規定のうち政令で定める規定を除く」と読み替える形になっており、除かれるのは審査対象の範囲です。設計者が規定を守る義務は変わりません。ここは引っかけとして使いやすい論点です。
改正3|構造計算が必要になる規模(法20条1項)
構造の規模区分も条文が変わっています。現行の法20条1項2号・3号です。
建築基準法 第20条第1項第2号・第3号(抜粋)
二 高さが六十メートル以下の建築物のうち、木造の建築物(地階を除く階数が四以上であるもの又は高さが十六メートルを超えるものに限る。)又は木造以外の建築物(地階を除く階数が四以上である鉄骨造の建築物、高さが二十メートルを超える鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物その他これらの建築物に準ずるものとして政令で定める建築物に限る。)
三 高さが六十メートル以下の建築物(前号に掲げる建築物を除く。)のうち、第六条第一項第一号又は第二号に掲げる建築物(木造の建築物にあつては、地階を除く階数が三以上であるもの又は延べ面積が三百平方メートルを超えるものに限る。)
数値を整理すると次のとおりです。
| 区分 | 木造 | 木造以外 |
|---|---|---|
| 1号 | 高さ60m超 | 高さ60m超 |
| 2号 | 階数4以上(地階を除く)または高さ16m超 | 階数4以上の鉄骨造、高さ20m超のRC造・SRC造 等 |
| 3号 | 法6条1項1号・2号の建築物のうち、階数3以上または延べ面積300㎡超 | 法6条1項1号・2号の建築物 |
| 4号 | 上記以外 | 上記以外 |
現行条文に「高さ13m」「軒の高さ9m」という木造の区分は登場しません。 20条の木造の区分は「階数4以上」「高さ16m超」です。古い語呂合わせを使っている方は、ここで上書きが必要になります。
構造計算ルートの全体像は構造計算の種類と適用規模にまとめています。
改正4|大規模木造は「特定主要構造部」(法21条)
用語そのものが変わった箇所です。
建築基準法 第21条第1項(抜粋)
次の各号のいずれかに該当する建築物……は、その特定主要構造部を通常火災終了時間……が経過するまでの間当該火災による建築物の倒壊及び延焼を防止する……ものとしなければならない。ただし、その周囲に延焼防止上有効な空地で政令で定める技術的基準に適合するものを有する建築物については、この限りでない。
一 地階を除く階数が四以上である建築物
二 高さが十六メートルを超える建築物
三 別表第一(い)欄(五)項又は(六)項に掲げる用途に供する特殊建築物で、高さが十三メートルを超えるもの
押さえどころは3つです。
1|「主要構造部」ではなく「特定主要構造部」。 法2条の用語定義と対応させて読む必要があります。用語定義は建築基準法2条の用語定義|試験で出る15語で整理しています。
2|規模要件は「階数4以上」「高さ16m超」。 法20条1項2号の木造の区分と同じ数値です。セットで覚えると定着します。
3|13mが残っているのは3号だけ。 別表第一(い)欄(五)項(倉庫等)・(六)項(自動車車庫等)の特殊建築物に限って高さ13m超という基準が使われます。「13mは全部消えた」と覚えると3号を落とします。
なお同条2項では、延べ面積3,000㎡超の建築物について、壁・柱・床その他の部分または防火設備に関する基準が定められています。21条は1項が高さ・階数、2項が面積という組み立てです。
耐火建築物との関係は耐火建築物・準耐火建築物の違いと用途による建築義務を参照してください。
改正5|省エネ基準への適合が、確認申請の審査対象になった
建築基準法ではなく、建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律)側の改正です。
建築物省エネ法 第10条(建築主の基準適合義務)
建築主は、建築物の建築(エネルギー消費性能に及ぼす影響が少ないものとして政令で定める規模以下のものを除く。)をしようとするときは、当該建築物……を建築物エネルギー消費性能基準に適合させなければならない。
2 前項の規定は、建築基準法第六条第一項に規定する建築基準関係規定とみなす。……
試験対策としての要点はここです。第2項で「建築基準関係規定とみなす」とされているため、省エネ基準への不適合は確認済証が交付されない理由になります。 建築基準法の外にある法律が確認申請の審査対象に取り込まれる、という構造そのものが問われます。
同じ「建築基準関係規定」の枠組みは、バリアフリー法や都市計画法などにもあります。関係法令の位置づけは都市計画法の出題対策でも触れています。
なお、非住宅建築物の一次エネルギー消費量基準(BEI)の水準は、省エネ基準の告示側で段階的に引き上げが進んでいます。ただしこれは告示の数値であり、法規の学科試験で数値そのものが問われる形にはなりにくい部分です。数値の暗記より、「基準適合が義務であること」「確認申請の審査対象であること」を押さえてください。(告示の適用時期・数値は改定が続くため、実務で使う際は国土交通省の一次資料で確認してください。)
改正6|脱炭素に関する2つの緩和(法52条・法55条)
見落とされがちですが、条文が新設されているため出題対象になります。
容積率|給湯設備等の機械室(法52条6項3号)
住宅または老人ホーム等に設ける機械室その他これに類する部分のうち、給湯設備その他の国土交通省令で定める建築設備を設置するためのもので、特定行政庁が交通上・安全上・防火上・衛生上支障がないと認めるものは、延べ面積に算入されません。
法52条6項には、ほかにも昇降機の昇降路の部分などが並びます。「不算入となるのは何か」を項ごとにまとめて覚えるのが効率的です。容積率の計算全体は建蔽率・容積率の計算方法にまとめています。
高さ制限|再生可能エネルギー設備(法55条3項)
第一種低層住居専用地域・第二種低層住居専用地域・田園住居地域の高さの限度は、都市計画で定められた10mまたは12mです(法55条1項)。これに加えて3項が置かれ、再生可能エネルギー源の利用に資する設備の設置のため必要な屋根等の工事を行う建築物で、特定行政庁が許可したものは、その許可の範囲内で限度を超えることができるとされています。
高さ制限は許可・認定の主体を入れ替えた出題が定番です。55条2項は「特定行政庁が認めるもの」で12m、3項は「特定行政庁が許可したもの」で限度超えという違いに注意してください。斜線制限を含む全体像は高さ制限・斜線規定をわかりやすく解説にあります。
試験での出題パターン
法改正が絡む問題は、次の3つの形で出ます。
パターン1|改正前の数値を選択肢に混ぜてくる。 もっとも多い形です。「木造3階建て」「高さ13m」「軒の高さ9m」といった、改正前の教材に載っていた数値が誤りの選択肢として置かれます。法令集を引けば必ず判別できるので、迷ったら引いてください。
パターン2|用語を入れ替える。 「主要構造部」と「特定主要構造部」、「認定」と「許可」、「建築主事」と「建築主事等」。改正で用語が増えた箇所は、そのまま入れ替え問題の材料になります。
パターン3|条文の位置を問う。 「審査省略の根拠条文はどれか」のように、内容ではなく条文番号を問う形です。法6条の4のように条文名と通称(4号特例)がずれている箇所は狙われます。
法規は法令集を持ち込める科目なので、改正箇所は「覚える」より「引ける」ようにするほうが確実です。頻出条文の全体像は建築基準法 頻出条文ランキング20にまとめています。
社会人受験生へ|法改正に振り回されないための3つの手順
限られた時間で法改正に対応するなら、次の順番が現実的です。
手順1|最新年度版の法令集を1冊用意する。 法改正対策としてもっとも確実なのは、その年度版の法令集を手元に置くことです。改正は法令集に反映済みなので、条文を引く習慣さえあれば、古い数値を答えることはありません。逆に、古い年度版で線引きをしてしまうと、改正箇所をそのまま覚え込むリスクがあります。
手順2|改正箇所だけ、別の色で印をつける。 法6条・法6条の4・法20条・法21条は、通常の線引きに加えて、余白に小さく印をつけておきます。本番で選択肢に古い数値が出たとき、印のある条文だと気づけば即座に引きにいけます。線引きの基本は法令集の引き方と線引きのコツにあります。
手順3|古い過去問の解説は、条文で裏を取る。 改正前の年度の過去問は、問題としては有効でも解説の数値が現行と合わないことがあります。解説を読んで違和感があったら、必ず法令集で確認する。 5年以上前の過去問を使う場合は特にです。過去問の使い方は過去問の使い方|法規で25点以上を取る反復演習のコツで整理しています。
平日にまとまった時間が取れない場合、この3手順だけなら合計2〜3時間で終わります。法改正対策は範囲が狭いわりに配点への影響が読みやすいので、後回しにせず早めに片づけておくと安心です。
まとめ
- 適用されるのは試験年の1月1日現在で施行されている法令。公布済みでも未施行なら出ない
- 4月1日施行の改正は、その年の7月の試験には出ず、翌年の試験から対象になる
- 法6条1項は1号=特殊建築物200㎡超/2号=階数2以上または200㎡超/3号=都市計画区域等内。2号に木造・非木造の区別はない
- 審査省略の対象は法6条の4第1項3号=法6条1項3号の建築物で建築士の設計に係るもの。省略されるのは審査であって規定の適用ではない
- 法20条1項2号の木造は階数4以上または高さ16m超。現行条文に13m・軒高9mの区分はない
- 法21条1項は階数4以上/高さ16m超/(五)項(六)項で高さ13m超。対象は「特定主要構造部」
- 省エネ基準への適合義務は建築基準関係規定とみなされ、確認申請の審査対象になる
- 法52条6項3号(給湯設備等の機械室の容積率不算入)、法55条3項(再エネ設備のための高さ制限の許可)も新設条文
- 令和9年試験の基準日は受験要領の公表後に必ず自分で確認する
改正が続いた分、古い教材と現行条文のズレは大きくなっています。ただ、法規は法令集を引ける科目です。「引けば分かる」状態さえ作っておけば、改正は不利ではなくむしろ有利に働きます。 改正箇所を知らずに古い数値で解答する受験生が一定数いるからです。
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